宇多田ヒカル
小袋成彬
酒井一途
座談会

Section 14

「それこそ音楽が聖域である理由だから。人に気を遣う必要がない空間。だから音楽が好き。」

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「それこそ音楽が聖域である理由だから。人に気を遣う必要がない空間。だから音楽が好き。」

小袋:エンジニアのSteve Fitzmauriceが、他のクライアントに言ってるヒカルさんの面白い発言、なんだっけ?

宇多田:『Fantôme』で「ともだち」のホーンセクションを録ってるときに、ミュージシャンたちが「ちょっとこれできない、難しい」とかなんとか言ってたときに、私が「それは、不可能なの? 難しいの?」って、聞いたらしいの。自分では覚えてないんだけど。

小袋:英語で言うと?

宇多田:“Is it impossible? Or is it difficult?”

小袋:ハハハ(笑)

宇多田:そのまま直訳なんだけど。聞いたら、向こうが黙っちゃって。「いや、impossibleではない……」みたいな。「あっ、じゃあ、頑張って」って言ったんだって(笑)「じゃあ、やってください」って。

小袋:(笑)

宇多田:Steveが大ウケして。私がサラッと、無垢な感じですっげえキツイことを言うことにね。それ以降、彼は自分で指示するときに、「不可能なのか、難しいのか? 難しいんだったら、やれ」って言うんだって。
 あと別の話。私がデモで指定して書いたフレーズ、それだけでいいって言ってあったんだけど、最後に録り終えたあと、「一応あの、他のとこも考えてきたんだけど」って言われて、譜面渡されて。私、頼んでなかったから、「あ、いいですー」って(笑)

小袋:(笑)

宇多田:聴きもしないで(笑)やってみてなし、ってわけでもなく。だいたい、次のパーカッションの人が待ってたし。その時間取ってないからさ。急に言われてもって思って。その話もSteveは大好きで。
 彼も小袋くんと似ててコントロールしたいところがあるから、できる限りの準備をする人なの。なおかつ潔癖症で、すべてが理路整然でないと気がすまない。絶対おべっかや嘘を言わないし、なあなあにもしない。
 Steveに言われるまで気にしなかったんだけど、私は現場で「こうしてほしい」というのがハッキリしてるみたいで、やりやすいんだって。Steveも「今の良くない」とか「今のいい、ここがいい」とか「俺はこんなん大嫌いだ」とか言う。

小袋:ギター鳴らしてても、「なんだ、今のクソみたいな音は?」とか言って(笑)

宇多田:そうそう(笑)無駄がなくて、変に気を遣いあうことがないから、本当にやりやすい。私にとっては、それこそ音楽が聖域である理由だから。人に気を遣う必要がない空間。だから音楽が好き。

小袋:彼が向かう先にあるもの、好きでしょ?

宇多田:うん。明瞭なの。小説家の友達に今回のアルバムを聴かせたとき、clarityって言ってた。透明感かな。

酒井:澄み通ったような。

宇多田:そう、それがうれしかった。

(構成・編集:酒井一途.2018年5月22日採録)

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