宇多田ヒカル
小袋成彬
酒井一途
座談会

Section 2

「誰かが紐解いてくれればいいわけじゃん。何かを伝えたいと思って、音楽を作っているわけじゃないからさ」

Page1

「誰かが紐解いてくれればいいわけじゃん。何かを伝えたいと思って、音楽を作っているわけじゃないからさ」

宇多田:そもそもこういう場を設けようとした目的は、二人ともたくさんインタビューを受けてるわけだけど、得意じゃないし、苦手意識があるの。なかなかいいインタビューを体験しないから。どうやって切り抜けて、対応していけばいいんだろうね、って話になって。

小袋:インタビューは不要だよね、と。こうして喋っているのを、誰かが紐解いてくれればいいわけじゃん。何かを伝えたいと思って、音楽を作っているわけじゃないからさ。

宇多田:糸井重里さんのサイトで、インタビューっていう形式は、人類の歴史の中でまだ浅いものだと書いてあって(*1)。一人が誰かに質問をするという、不思議な形式はね。
 あと、歌詞の話をしたくて。うちらの歌詞について、正当な評価がないね、と。

小袋:やれ文学的だ、とか。

宇多田:小袋くんの歌詞をそこまで深く感じたり分析できてない人が、「文学的な」という形容をしたりする。精いっぱいな表現で。

小袋:精いっぱいじゃない。陳腐な表現だね。

宇多田:文学に、親しみを感じてない人が使いそうな表現だな、と思う。私も自分の歌詞について、そんなに突っ込んだ評論をしてくれる人っていない。

小袋:僕の歌詞は、私小説的と言われることがある。そして、私小説批判みたいなこともあったり。

酒井:ヒカルさんがインタビューで、(萩原)朔太郎の『詩の原理』にある言葉を引用して答えてるけどさ、「私小説作家というのは基本的に自分の実体験を元にしているけど、どれだけ露骨に描かれていてもそれは自分自身じゃないんです。作品にするプロセスでは必ず自分ではない誰かになっていて、その自分ではない誰かが結果的に自分になっている」と、仰ってる通りなんじゃないかな(*2)。

小袋:まさしく(笑)時々インタビュアーに「フィクションなんですか、ノンフィクションなんですか」とか聞かれるよね。

宇多田:「実体験なんですか」とか聞かれると、ベクトルが違いすぎて、どう答えていいかわからない。インタビューでそういうことを訊いてくる人の、批判をしたり文句を言っているわけじゃなくて、単に意識が違うだけなんだけど。それこそ他者同士だからさ、わかりあえなくて当然なんだけど。「今日のパンツの色、何色ですか」って聞かれるくらい、それに何の関係があるんだろうって思う。

(*1) ほぼ日刊イトイ新聞「インタビューとは何か。塩野米松さん篇」より。「C・シルヴェスター編『THE INTERVIEW』(1993年刊)によれば、読みものとしての「インタビュー」は「130年ほど前」に「発明された」」とある。
https://www.1101.com/interview/shiono/index.html

(*2) 雑誌「SWITCH Vol.36 No.5 特集:宇多田ヒカル」2018年4月20日、LONG INTERVIEW

Page1

Page2

Section

Special Site

宇多田ヒカル/初恋

lyric & comments