宇多田ヒカル
小袋成彬
酒井一途
座談会

Section 7

「寝てようが、お皿洗ってようが、買い物してようが、友達と飲んでようが、脳の大部分がインスピレーションを待ってる」

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「寝てようが、お皿洗ってようが、買い物してようが、友達と飲んでようが、脳の大部分がインスピレーションを待ってる」

小袋:一途は自分の作品を作るときはどうなの? 他者をどう意識してる?

酒井:そもそも「私」って、何からできているのかをよく考える。それで、私という存在は、他者との関わりあい方そのものだったり、他者とのあいだに関係性が生まれることによって、初めて存在しはじめるのかな、ということを思い始めた。
 もともと僕は、自我やエゴがとても強い人間だったんだけど、作品を作る上では、いかに自我を削ぎ落として、透明な状態にできるか、ということを試行錯誤してる。作品の中に、他者を映し出せるように、創作するときは、自分と他者の境界をなるべくなくそうとする。

宇多田:それもすごいな。もともとハッキリ自我があるっていう意識があって、あえてそうしてものを作るというのは。私は逆で、だからものを作りやすいのかも。「私は鏡だ」っていう詩を書いたことある。

小袋:宇多田さんが来る前も、その話をしてたんだよね。「アーティストとしての宇多田ヒカルと、人間としての宇多田光の乖離が、まったくない」って、一途が言ってた。

宇多田:なんかちょっとうれしいな、それ。

小袋:自分では認識できてるものなの?

宇多田:もともとそうなんだよ。ずっとこう。「こういう仕事をやっていて、アーティストとしてそれだけで食べていけて、それだけをやっていていいという環境に長年いるから、そういう乖離がない状態にある」というわけではなくて、たぶん子供のころからずっと。ものを作る状態の、鏡みたいな、透明な状態が、普通。

小袋:(インスピレーションが)おりて来るまで待つとか、何かすることで作るモードに持っていくとか、そういう作業はしないの?

宇多田:いつおりて来るかわかんないから、いつも釣りしてる感じ。歌詞を書いてて出てこないときって、頑張って出そうとして出てくるものじゃないじゃん。だからもう、寝てようが、お皿洗ってようが、買い物してようが、友達と飲んでようが、脳の大部分が待ってる状態に使われてる。普段話してても、人といても、百パーセントそこにいられない。

小袋:一途も待つって言ってたよね。

酒井:待つね。

小袋:作るモードになるための手段ってあるの? って聞いたら、「待つ」って。

宇多田:ね、でもそれしかないよね。ほんと、patience。忍耐? 小袋くんはその辺、しっかりしてるよね。ちゃんといつまでにという時間で、作って。真面目って言うと、つまんなく聞こえちゃうけど。私はすごいなって、思う。

小袋:そもそも僕はそんな芸術家肌じゃないから。常々考えてるわけじゃないし。いろんな興味はあるけど、そんなに芸術に向いてる方ではないと思う。どっちかっていうと営業マンに近くて。だから、自分を作るモードに持っていかないとダメなんだよ。スポーツのように自分を高めて。本読んで、「来た、来た、今だああ!」っていうのをしないと(笑)でもモードになったときの、その爆発力は信じてる。
 人生は暇つぶし、って思ってたから、今回のアルバムもすべて発想を変えようと思ってさ。このままレーベルやってお金を稼いでく将来がわかりつつあっちゃったから、明日死ぬかもしれないって意識して、自分をチェンジしなきゃと思って。ようやく創作のモードに入ったときに作ったアルバムだな。

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宇多田ヒカル/初恋

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