Section 9
「みんな孤立してるじゃない、本当は。でも一人と一人だったら、それを乗り越えて本当の繋がりを感じられる。それが私の繋がり方だな」
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小袋:僕は野球部だったからさ、完全に組織。個人なんかどうでもよかったのよ。チームが甲子園に行ければ、僕はサードコーチャーで肩を回してればよかった。それが僕の生きがいだったわけだよね。それから、「おや違うぞ」って気づくのに、むちゃくちゃ時間がかかった。もっと違う世界がある、ってことに。だから僕の人生においては、高校卒業してから大学一、二年で出会った友人がもっとも大切で。そこでいろんな人の価値観に触れることで、組織や個人への考え方が変わっていったんだよ。
宇多田:私はどの国にも属していない、部外者たちが集うインターナショナルスクール、って環境で育ってるから。世界百何十カ国から来てる生徒がいて、共通言語は一応英語だけど、英語喋れない子もいっぱいいた。アフリカからの難民の子が来て、フランス語しか喋れないとか。家族が殺されたから来たんだって。そういう子がいるのが普通だったんだよね。だから、どこにも属していない独特の無国籍地帯、聖域みたいなところで育っちゃったんだよ。今振り返ると、本当にラッキーだったんだなって感じる。すごく貴重な育ち方、教育の受け方ができた。
酒井:居心地はどうだった?
宇多田:その中でも私は浮いてて。グループにも属せず、ひとりふわふわって。常に転校生の状態。一箇所の学校に、最長でも三年とか。飛び級したり、クラスが変わったりもして。だから学校というアイデンティティーすらないんだよ。どこにも母校という意識はないしね。外からぽつんとみんなを見てた。
でも、そういうのを特徴としてるアーティストは多いじゃない。ビョークとかもさ、孤立してる人じゃん。国も人種もわけわかんないし、どこで育ったのかも、何考えてるのかもわかんない。私もそっち系なのかもしれない。強みなのかも。
酒井:孤立という特徴が、大勢の聴き手に繋がっているのは、すごいことだよね。
宇多田:みんな孤立してるじゃない、本当は。気づかないで生きてたり、見ないようにして生きてるだけでね。自分が孤立していることを見ない方がいい、考えない方がいい、っていう教育を受けてきてるから。特に日本はそう。集団で繋がっているという幻想を見せて、自分よりも集団を大事にしろっていうでしょう。そういう息苦しさがあるよね。でも一人と一人だったら、それを乗り越えて本当の繋がりを感じられるんじゃない? それが私の繋がり方だな。
小袋:だから曲を書くプロセスにおいても、「全」じゃなくて、「個人」に対しての思いや、消化しきれなかった感情を音楽にしてるってことだよね。
宇多田:結局ものを作るってことは、個人主義なんだろうね。「メッセージは?」と聞かれても、ないじゃん。
小袋:ないね。
宇多田:メッセージを言うために、もの作ってる人たちとはもうなんか、全然違うことをやってると思う。どちらが良い悪いではなくて、別ものだね。